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天津留学通信

【鍼灸マッサージ師】天津留学通信53 ~2年間を振り返って…師の教え・中国の鍼、日本の鍼~

2016年07月04日

6月の天津は雷を伴う激しい雨がよく降りました。年間通じてほとんど降らない印象ですので、とても良いお湿りとなりました。日中降り続ける日があったのは今年に入って初めてかも知れません。
天津最大の青果卸売市場の発表によると、野菜全体の値段が平均10%近く値上がりしたということです。パクチーは+87.5%、白菜は+60%、チンゲンサイは+50%の価格高騰を見せ、どれも国民がよく食べるものであることから家庭にとっては大打撃となったようです。ちなみに、例年7~8月が最も雨の降る季節ではありますが、それでも東京の同月と同程度の雨量です。
いかに少ないかがお分かりいただけるのではないでしょうか。出かける予定を立てるなら、天津の天気は心配がいらず苦労しませんが、滅多に降らないと空気はどんよりよどみ、からからに乾く一方ですので、日本の天気が羨ましいと思うこともあります。

さて、病院研修は今月で最後となりました。留学通信も今月号が最終回となります。人生の先輩である中後さんがぜひフィナーレをとの思いがありましたが、毎月交互に書かせていただく順番に従い、身に余るところではございますが、私なりに留学を総括する形でお届けできればと思います。
 
<留学総括>
中医学における最大の特徴である弁証論治を行う際、四診(望・聞・問・切)から得た情報をもとに疾病を割り出していくわけですが、特に脈診はその要領を掌握することが難儀であり、中国において一皮むけたいという願望がありました。付梅先生は、いわゆる28種類の脈象を滅多に語らず、14種類の基本病脈(浮・沈・長・短・大・細・遅・数・弦・有力・無力・滑・渋・停止)の脈理とその弁別を強調されます。
教科書などに記載される客観的な分類とその理論を理解したうえで、実際に患者さんの脈に触れて主観的な自分の感覚で判定するわけですから、結局のところ自分の出した答えが合っているのかどうかは先生と答え合わせをする以外に方法がありません。同じ種類の病脈でも性別や年齢、体格差、あるいは病脈が複合して現れる場合には判断に困り、脈理をよく理解しつつ多くの経験を積まねばなりませんが、この半年は付梅先生と概ね一致するまで指の感覚を鍛えていただきました。それもこれも、付梅先生の親身なご指導と、連日50人を超える患者さんがいてこそだと思います。一生の財産となる経験を積むことができました。

私のような国家資格取得後間もないぺえぺえには、1人の先生のもとでじっくり実習をさせていただく意義は大きかったです。脈診の学びもその一つですが、先生や患者さんから学習段階に応じた多くの指南や評価を得られました。
初めの頃は信用を得るためにあくせくしましたし、今でも、鍼灸治療が得てして“痛み”という不快感を伴う可能性がある以上、新しく来た患者さんとはそのご家族共々慎重に信頼関係を築かねばならず、ラポールの形成をめぐる緊張感は尽きることがありません。しかしながら、通院の長い患者さんは付梅先生に私たちが成長していると伝えてくれますし、刺鍼のご指名をいただく涙ちょちょぎれる美談もあります(笑)。
最近、付梅先生からは、新しく来る実習生の刺鍼にアドバイスするように言われたり、7月中も帰国前まで時間の許す限り来てくれたら助かると声をかけていただいたりと、お忙しい診療に私たち2人が必要な人員として信頼されたこととして大変誇らしく思います。決して器用ではない私は、じっくり腰を据える環境とご鞭撻くださる付梅先生がとても向いていたと思います。

もちろん2年間の滞在で中医学に習熟できるわけでは到底なく、一方でもっと学びたいと思えば切りのないことです。中国一流の、また最前線の中医臨床現場とはどのようなものかを見るなかで、自分がこれから何を学び、何が必要かということを私なりに考えることはできました。中国の現場から知った実情を以下にまとめます。
 
・知識分野における西洋医学の存在感は大きい。
・中医学は絶えず西洋医学からの挑戦を受け、その都度より普遍的な治療法であり続けている。
・西洋医学と中医学が互いに通じ合う柔軟的で包括的な学術研究が評価されている。
・中医学の発展と西洋医学との相互補完は臨床研究を通じて実現できる。
・中医学を科学化するのではなく、科学的な態度で中医学を見ている。
・中医学の知識を持ちながら現代科学知識を持つ人材が中医学を牽引している。
 
これらは、中国が中西医結合医学を推し進めていることに起因しており、その理念と方向性の議論は多くの識者の中で賛否分かれるようですが、少なくとも天津中医薬大学においては中医師が西洋医学の良さをくみ上げる形で成り立っていました。
日本においても東洋医学が西洋医学と相補・相乗的に医療を担おうとする、いわゆる統合医療が病院単位で、研究所単位で、個人単位でさまざま行われ、すばらしい研究成果を発表していますので、中国に行かずとも中医学は学べるという意見や、統合医療としての鍼灸にそもそも中医学を学ぶ必要はないといった意見もあるようですが、上述の実情のなかで発展する中西医結合医学は日本が目指す統合医療と対比して示唆に富んでおり、その現場を実際に自分の目で見ることはやはりリアルな学びを与えてくれました。

道具に関しては、日本の方が衛生的かつ高品質であることに疑いはありません。1990年以降、中国の鍼は日本の鍼に倣って細くなった経緯や、最近は日本の企業と鍼灸道具を共同開発する動きも耳にします。臨床分野に関しても、世界をリードする鍼灸治療を日本が牽引することは意義深いと感じます。
中国では、日本の市販薬や健康食品を“神薬”と呼び、日本はキレイで日本人は真面目で礼儀正しくて良い国だと多くの人に言われます。日本商品の評価は、素材への安心だけでなく使用者への使い勝手の良さや優しさにあり、中国メディアには“思いやり”という“神”の化身と分析されており、中国における日本の高い信用度と満足度が伺えるところです。したがって、“思いやり”に溢れた日本の臨床も、世界から見たら実は日本らしさであり得るのかも知れません。世界をリードする具体的な理論や技術論は、鍼灸師にならんとする者がすべからく東京衛生学園で学べば良いのではないでしょうか(笑)。
日本の鍼(ここではステンレスのディスポ鍼の意味)は、学生時代の実技練習から痛みを伴わず刺入できる素晴らしい道具です。よって、鍼を刺入するということの難しさを感じることなく鍼灸師になれるとも言えます。一方、中国の鍼は細くなった現在でも日本より物理的に太いもの(0.30㎜)を常用しますし、一般的に鍼管も用いませんから、学生においては刺鍼技術がそのまま痛みとしてあらわになってしまいます。
東京衛生学園では中国鍼の刺入技術をこれでもかと学びますので、学生全員が刺鍼の難しさに直面するからこそ、刺鍼のノウハウを理解する必要性を認め、3年間を通じて修練していきます。もしステンレス鍼だけを使って練習する場合にはその壁にはぶつかり難いものと思います。そして、その壁を越えるかどうかは臨床能力と密接に関係してくるのではないでしょうか。
何を申し上げようとしているかと言いますと、中国一流の中医師の刺鍼は、鍼管を使わないがゆえに鍼管を使った刺鍼には無い鍛錬を積まざるを得ず、したがって鍼管を使った刺鍼では学び取れない鍼という道具への深い洞察が存在するのだと感じます。すなわち、中国鍼の刺入で最低限必要な筋力と巧緻性は、治療者自身が鍼を通じて感じ取ることができる感覚(患者の生体反応等)を養うのに必要なのではないかと思うわけです。
中国鍼の刺鍼テクニックは、鍼を自在に操る能力、鍼を通じた指の鋭敏な感覚を培うことができるのかも知れません。補瀉手技や患者が感じる10種類の得気、治療者が感じる魚釣りに例えられる鍼感、治療者に求められる5種類の技能(轻・巧・快・弹・借力)など、治療者の感覚と刺鍼技能が言語化され、また多様であることはその結果と言えましょう。

なお、東京衛生学園は、そんな中国鍼の学習にとどまらず銀製の和鍼の刺鍼テクニック(中国鍼とは真逆の鍛錬を要すると高橋大希先生から教わりました)も徹底的に練習し、鍼を扱う技量がウルトラスーパー伸びる授業が組まれています。技量は臨床能力に繋がり、また臨床能力の向上は臨床研究の進展と不可分であることから、東京衛生学園で学ぶ意義のほんの一端は言及できたのではないでしょうか。各学校教育の特色が限られた時間の中での付加価値や目標設定をどこにもっていくかであるとするならば、東京衛生学園のカリキュラムは中国に来て一層納得することが多く、卒業して資格を得た後のことを真剣に考えてくださっているのだと良く分かります。光畑昇先生が常々仰っていた「国家資格合格は当たり前、その先で生きる知識と技術を提供するのが東京衛生クオリティ」という深イイ話を実感できるエピソードです。
ちなみに、付梅先生から私たちがどのように刺鍼の練習をしたかを問われ、ひょんなことから2016年6月21日付の東洋医療総合学科Blog『【東洋ブログ 大希のつぶやき】1年生鍼開始』に掲載されている写真をお見せしましたら、「すばらしい。練習なくして向上なし。あなた達がなぜ上手なのかやっと分かった。どうりで呑み込みが早かったわけだ。」と感心して下さいました。そして、付梅先生の診察室で勉強する学生や研修医師に本ブログの写真を見せて、「あなたたち見なさい。姿勢がすばらしい。この姿勢とこの指の形が必要なのよ。」とさっそくご活用していらっしゃいました(写真:ブログの写真を使って刺鍼を語る付梅先生)。

天津留学通信-刺鍼を語る

付梅先生はこの写真をご自身のスマホにも保存され、実習生一人ひとりに送りつけるほど感激しておいでで、「送った写真を見て良く学びなさい。」とべた褒めでした(写真:ブログの写真を絶賛する付梅先生)。

天津留学通信-ブログを絶賛

鍼を刺すだけ、身体を揉んで擦って押すだけ、と捉えれば前時代的な療法だと軽視されてきた過去があり、現代は科学的に敢えてそのように捉えることがありますが、日本も中国も東洋医学はとにかく深遠であり、陳玉辰先生のお言葉を借りれば、「単純なものほど簡単ではない」ということです。シンプルであれば誤魔化しが利かないからこそ難しいのではないでしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチの“単純であることは究極の洗練である”という言葉が想起されます。それゆえ、付梅先生からは「贵在坚持」とのお言葉をいただいております。この成語は、「勉強し続けることが重要」と解釈されます。兵頭明先生が東洋医学概論の最終回でも同じ言葉を仰っていたなと感慨に浸りつつ、そのような東洋医学的な理論と方法論の弛まぬ学びの先に、EBM等(科学的視座)を通じて日本らしい優れた臨床という道が開かれるのだなと感じました。

ところで、近年では「ホーリスティック」という言葉に代表されるように古くも新しい概念が脚光を浴びています。「未病を治す」や「病気を診るのではなく病人を診る」といった中国伝統医学の考え方が近代西洋医学に新たな光を当てています。その結果、大学病院等で最先端医療を行う医師の専門性追究より、臓器や治療法を限定せずに幅広い臨床能力を持つ家庭医の専門性が注目されるようになっていると聞きます。
家庭医は、クライアントのニーズに合わせ、生活に寄り添いながら総合的な専門性を発揮する全人的医療を提供します。家庭医にも専門医に劣らぬ独自の“専門性”があるとの再発見は、東洋医学との親和性を高め、地域のプライマリ医療において東洋医学的介入が普及し得ると言えます。
一方、大規模な医療施設においても現代の医師像は“ジェネラリスト”かつ“スペシャリスト”であることが求められ、各種専門医としての専門科はあくまで“サブスペシャリティ”と捉え、全ての患者に対してどのような病態で最善策は何かを考えられることこそが医師の使命であるとの社会的ニーズも高まっているようです。したがって、家庭医のみならず専門医においてもホ―リズムを重視する時代の中では、あらゆる医療機関での治療法選択のひとつとして東洋医学が挙げられ、そして東洋医学の専門家も医師らとともに医学を支える統合医療を目指してこそ真の全人医療につながると帰結します。私自身は、鍼灸按摩マッサージ指圧師として東洋医学の立場から統合医療に携わり社会に貢献できるよう精進してまいる所存でございます。

最後に、中後さんと私の留学は終わりになりますが、東京衛生学園卒業生としては田中悠里さんが新たにやってきます。田中悠里さんは、すでに中国語の日常会話をクリアーしているご様子で、先日は上海やハルビンを旅行し、そして天津にも遊びに来てくれました(写真:田中悠里さんとの記念写真)。

天津留学通信-記念写真

私たちは多くの先輩方に助けられて過ごしてまいりましたので、田中悠里さんを直接サポートできず心苦しいところではありますが、天津中医薬大学には他に5名ほど日本人が在籍していらっしゃいますので、安心して留学生活を送れると思います(写真:天津中医薬大学日本人会の皆様との記念写真)。

天津留学通信-日本人会

9月からは田中悠里さんから見た中国、そして田中悠里さんのご活躍をこの留学通信から拝見できることを楽しみに帰国の途に就きます。

充実した学びを得て無事留学を終えられますことに、関係各位に深甚なる謝意を表し、最後のレポートを締めくくらせていただきます。(写真:錦旗を進呈し3人で記念撮影)

天津留学通信-錦旗
 
上柿拓真
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