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天津通信

【鍼灸マッサージ師】天津留学通信46 ~衛生学園で身に付けた基礎力が中国で活きる~

2015年11月04日

日本では、冬の気配を感じるこの頃。中国は秋を通り越して冬の気温になってきたそうです。
天津に留学中の中後さんより、10月のレポートが届きました!
 

9月下旬から一週間ほどの国慶節休みでスタートした10月ですが、気が付けば月次報告を書く月末に差し掛かっていました。
最初の頃は毎日緊張して臨んでいた病院実習にも、徐々に慣れ、本当に少しずつですが、患者さんともコミュニケーションを取れるようになってきました。
天津では既に、冬の到来を感じますが、2年目なので、今のところ、昨年のように頻繁に体調を崩すことなく、毎日の病院実習に励んでいます。

10月の天津、学校の様子をお届けします。

<臨床実習>
9月から開始した臨床実習も、早いもので2ヶ月が経過しました。この2ヶ月間私は、長期間に渡り日本とも、大変深い関わりを持たれている張伯儒医師と、先月上柿さんがご紹介した付梅医師のもとで実習をさせて頂きました。

張先生は、先生のもとで研修をなさった日本人鍼灸師の先輩方が沢山いらっしゃるのと、先生ご自身が度々日本に行かれ、日中両国の鍼灸発展に日々ご尽力されているので、ご存じの方も多いかと思います。私はお二人の先生のもとでの学びがあったので、それぞれご紹介します。

●1日120~150人を治療する張先生
張先生の診察室で、まず感じるのは、患者さんの多さです。1日で120人程度、多い時で150人近くの患者さんを治療します。12床あるベッドは朝8時前から患者さんでいっぱいです。張先生は鍼治療をするだけではなく、置鍼時間などの短い時間で、薬の処方(中医薬はもちろん、西洋薬の処方もします)や新患の対応などもこなす多忙ぶりです。しかも、刺鍼時には、特にカルテなどの記録物を見ることなく、次から次へと患者さんに鍼を打っていきます。このように、患者さんの人数があまりにも多く、新規の患者さんは基本的に断っており、昼食を取る時間もないほどご多忙な先生です。そのため、例外はもちろんあるかと思いますが、短期の研修は受け入れていないと仰っていたので、おそらく研修旅行などでは見ることが出来ない先生のお一人だと思います。

●一つの経穴に複数本の鍼を打つ
患者さんは、脳梗塞後遺症が多いのですが、中にはバージャー病やギランバレー症候群といったような、臨床医学各論の授業以来、久々に聞く病名もあり、中医学の汎用性の高さを感じました。また、技術的な面で驚くことは沢山あるのですが、全てはとても書ききれないので一番驚いたことをご紹介させていただきます。それは、一つの経穴に複数本の鍼を打つ場合があることです。具体的には、顔面神経麻痺の患者さんに対して、眉毛の上にある陽白という経穴に、三本の鍼を打ちます。また、脳梗塞後遺症の患者さんに対して、が多かったと思いますが、合谷にも複数本の鍼を打つことがあり、これは鍼先の方向によって異なる効果を得ることが出来る、と仰っていました。そのような細かいことまで考えて、あのスピードで、患者さんや学生たちと会話をしながら鍼を打つ先生の知識と技術には、ただただ驚くばかりです。

●東洋医学的な治療する上でも西洋医学の知識は欠かせない
付梅先生は、先月上柿さんからの報告にもありましたが、7月に南院から異動して来られた先生です。赴任して間もなくはそれほど患者さんの数も多くなかったそうですが、最近は大ベテランの張先生の診察室に負けないほど、患者さんの数が多くなってきました。これも偏に、先生の人柄と確かな治療技術の賜物だと思います。異動したばかりの先生なので、張先生の診察室と比べて新患の数が多いです。中医師の先生というと、所謂、東洋医学的な手法だけを用いて、診察するイメージがあるかと思いますが、意外なことに、CTスキャン画像や各種検査数値など、西洋医学の結果も踏まえた上で、問診、脈診、舌診をして、治療に入ります。その際、西洋医学的な治療法の方が、回復が早いと先生が判断した場合は、躊躇なく西洋の病院に行くように指示します。東洋医学だけではなく、西洋医学の知識もきちんともち、お互いの得意分野を把握したうえで、きちんと鑑別をする、中西結合医療の理想形を垣間見たような気がします。

付先生は一日の治療が終わった際など、時間を見つけては我々に、病気の説明や東洋医学的なお話をしてくださいます。今まで伺った内容だと、西洋医学的な病気の説明が多く、東洋医学的な治療をする立場でも西洋医学の知識は欠かせないものだ、ということを痛感しています。また、夏から急に風が冷たくなる秋口には顔面神経麻痺の患者さんが増え、もっと寒くなると、頭痛や眩暈の患者さんが増える、と言ったような気候、季節に関係した説明もあり、人と自然を統一体としてとらえる統一体観という考え方がしっかり根付いているのだと思いました。

このように、季節に応じた疾患についての治療も見学でき、また、初診の際はとても暗い顔をして来る患者さんが、治療が進むにつれて、表情も服装も明るくなる姿を見ることが出来るのも、留学のメリットかと思います。

●衛生学園で身につけた基礎力が中国で活きています
最後に私たちが受けた衛生学園の教育について、触れさせて頂きたいと思います。
張先生も、付先生も学生に刺鍼をさせてくださいます。張先生は日本人鍼灸師に慣れているので、研修初日に日本の鍼灸師の免許を持っていることを伝えると、早速機会を与えてくださいました。最初は、梁丘、血海や大腿部の排刺など、比較的打ちやすい場所が多かったのですが、時間が経過するにつれて、顔面部の排刺や頭部、指、また、醒脳開竅法の水溝(人中)への雀啄や、患者さんの片足を持ち上げての委中への雀啄、などを体験させて頂くことができました。

また、付先生の診察室では、先生がしっかりと手技をチェックしてくださる環境にあり、その中で、合谷や承筋、承山、環跳などに刺鍼をしています。先月の報告にもありましたが、技術に関して衛生学園出身の上柿さんと私は、高評価を頂いています。我々は衛生学園を卒業してすぐに中国に来たので、学校以外で鍼灸の技術について、学んだことはありませんので、衛生学園の実技教育が中医師の先生に認められたことになるかと思います。中国ではご存じのように鍼管を使わず刺鍼をしますので、そのような環境で、中国鍼の授業で練習をしていない経穴や部位にも刺鍼ができたのは、衛生学園で身に付けた基礎力のおかげだと思います。これからは、ただ刺鍼するだけではなく、治療効果についても意識しながら練習をしていきたいと思います。
中後政則