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天津通信

【鍼灸マッサージ師】天津留学通信49 ~天津の新年・病院研修・日本の仲間たち~

2016年03月04日

1月下旬から2月中旬まで春節休みで一時帰国をしておりましたので、今回の月次報告は1・2月の出来事をあわせた形で送らせていただきます。

休暇を終えて天津に戻りますと、日頃お世話になっている方々にお土産をお渡しするわけですが、中国で人気のある日本のお土産をご紹介します。
日本のニュースでは中国人観光客が大挙して押し寄せ、百貨店やショッピングモール、家電量販店や薬局等で爆買いするさまを報道していました。毎年お馴染みの様子を報じるのも芸がないと感じたのか、あるいは本当に変化してきているのか定かではありませんが、一部メディアは違っていました。先の爆買いと対比して、買い物以外に価値を見出している富裕層を取り上げていました。すなわち、高級寿司屋や料亭で日本食を楽しみ、中国人に知られていない旅館の温泉で癒され、日本の歴史や文化に直接触れて日本でしかできない経験をするといったものでした。
爆買いする中国人が今後どうなるのかは分かりませんが、私自身、中国で生活して日本を外から見たときに感じるのは、日本の商品の安全性やクオリティは確かに高く、親戚や友人の分も含めて大量購入して持ち帰りたい中国人の気持ちは分からなくはない一方、それらの商品の単なる味、機能や効能だけでなく、細部にわたって反映されているメンタリティこそ日本を感じるところだということです。

さて、中国で最も有名な日本土産は、数年前に中国のテレビで取り上げられてから一躍人気が上がったという「白い恋人」に間違いありません。三大人気は、「白い恋人」、「東京ばな奈」、ロイズの「生チョコレート」です。特に「白い恋人」は、京都の「八つ橋」や2013年以降大人気の「キットカット抹茶味」などの追随を許さぬ勢いとのことです。
また、「東京ばな奈」に関しては“バナナプリン味”が美味しいと感じる人も多いようです。空港をはじめ、中国人が訪れる店舗には上記3つのお菓子がうずたかく積まれているので、需要と供給は完璧であるという印象です(笑)。ちなみに、面白い話と言えば、別の日本人がある中国人から買い出しを頼まれ、それはカレールウ、そしてなんと塩とコショウでした。中国人が評価する日本の商品は予想外のものもまだまだ多くありそうです。

もう1つ別のこぼれ話ですが、一時帰国に際して今回は北京で前泊しました。目的は鍼灸用具店や中医学書店に立ち寄ることと、ホテルでひと風呂浴びて帰ろうというものでした。それらのお店は、後藤学園の中国研修でも立ち寄る北京中医薬大学東直門病院近くのお馴染みのところです。

中医学書店

東直門という場所は、かつて当地にあった北京城の“東直門”からきており、まさに北京市の中心部のひとつです。近隣は中国国家中医薬管理局直属の研究・教育・臨床施設である中国中医科学院もあり、エリア全体に中医系の関連施設が多数置かれ、中医学に溢れた刺激的な街です。なお、中国中医科学院のボスは天津中医薬大学の張伯礼学長であることに触れないわけにはいきません(笑)。
そして、ホテルは東直門にある乾元酒店という四ツ星ホテル(日本の某旅行会社によるランク付け)に泊まりました。

ホテル乾元酒店

日本人に鉄板のニューオータニ長富宮飯店や後藤学園の研修旅行でお世話になった京倫飯店とは違い日本語が通じませんが、東直門駅は空港へ直行するエアポートラインの始発駅(国際ターミナル駅まで20分ほどの乗車)であることから、外国人に人気が高く外国人慣れするスタッフの多いホテルでした。宿泊費は、朝食付きで1部屋1泊1万円ちょっとです。2人で泊まれば半値の負担になります。東直門病院へは徒歩5分ほどですし、鍼灸用具店や本屋に至っては徒歩1分、ホテルのはす向かいと言っていいほどの距離しかありませんでした。普段の住まいである寮の部屋はシャワーのみでお風呂がありませんので、湯船につかってから日本に気持ちよく帰ることができました。

乾元酒店 バスルーム

先の日系ホテルと並んで乾元酒店もお勧めできますので、北京へお越しの際にはぜひご利用ください。
では、前置きが長くなりましたが、レポートの本題に入ります。今回は病院研修の様子に加え、禁じ手の日本滞在中の出来事、兵頭明先生が取り組んでいらっしゃる事業の成果報告会に出席させていただいた話と東京衛生学園の同級生との再会に関して、2つのテーマでお送りします。
 
<臨床実習>
旧暦でも新年を迎え、病院内も新たな気持ちで下半期が始まったという雰囲気です(写真:病院の受付前の人だかり+病院の窓も新年の装い)。

新年でにぎわう病院

病院も新年の装い

私も新たな半年という思いと最後の半年という気合の入った思いで実習を再会しました。付梅先生とは残りの半年をどのように取り組んでいくかの目標を話し合いました。今までは、よく診る疾患の病態把握、診断と処方(配穴)を学びましたが、残り半年のテーマはそれらを自分で再現できるように主体的に考える訓練をするということになりました。
付梅先生いわく、刺鍼の技術的な面は個人の練習次第である一定まで習熟できるとのことですが、鑑別診断は教科書に書かれていないことが多いため、西洋医学・中医学双方での診察学と病態生理という基礎知識をベースに、臨床現場で多くの患者に出会って初めて円熟するものであると仰います。
付梅先生の診察室は神経内科の鍼灸外来ですので神経疾患が中心ですが、中でも顔面神経麻痺は非常に多い疾患です。教科書には前額部のしわ寄せによって中枢性と末梢性を鑑別し、末梢性は顔面筋一側が全部麻痺することから、診察室に入ってきた瞬間にベル麻痺と一発診断がつくことも多いですし、顔面神経麻痺はその名の通り、表情筋の運動以外の顔面神経が分岐する目・耳・舌・唾液腺にも影響する場合があり、神経の走行を理解していれば障害部位と症候との関係を理解できる分かりやすさがあります。
しかしながら、一見すると分からない顔面神経麻痺の患者さんもいらっしゃいます。一般的には中枢性の麻痺は軽度、末梢性の麻痺は重度、中枢性の場合は同側の片麻痺や他の脳神経症状、失調を伴い単独に出現することは稀だと言われますが、前額部が問題なく動く軽度の末梢性顔面神経麻痺、画像で何も映らず微細な脳出血を疑う中枢性顔面神経麻痺、あるいは両側性の末梢性顔面神経麻痺など様々なタイプに出くわします。これらの鑑別には診察段階で患者さんの表情や動きをよく観察し話を聞くことが重要であり、その臨床経験を積まねば推論の力が付かないということです。
ちなみに、末梢神経麻痺に対する鍼灸治療は急性期を終えた発症1週間後から本格化していき、早くて約1ヶ月での回復、3ヵ月以内の回復率が80%と言われています。治療後翌日には麻痺の感覚が楽になったと自覚する場合が多く、治癒過程でのQOL向上にも鍼灸は威力を発揮します。中医学的には過労や正気不足、脈絡空虚、衛気機能の失調、風寒風熱が虚に乗じて顔面部の経絡に侵襲、経筋機能の失調などが病因として挙げられます。
なお、症状のピークは発症1週間後までとされ、それまでは正邪交争(正気である衛気が風寒風熱邪である邪気と争う)と言われています。配穴は顔面神経支配の筋肉や経筋への排刺、疏調筋絡気血や活血通絡を目的とした顔面部の経穴、手の陽明・太陽経穴などがメインです。特に、回復期で起こる表情筋の痙攣に対しては、鎮静止痙効果のある経穴に深刺するのがセオリーのようです。

中医の病院でも西洋医学理論で病態把握をすることはもちろんのこと、西洋医学的解剖での選穴も当たり前の様に行われ、古典中医学の理論とは矛盾しないことを前提に時代とともに進化する現代中医学的色彩が際立っております。それらの傾向は、循証医学(EBM)としての科学的視座による再評価という試練を耐え抜き、神経内科と整形外科の領域において特に卓越顕著な効果を示す臨床データが整理されていることに起因します。
付梅先生は循証鍼灸治療の研究グループのお一人であり、いわゆる西洋医学的理論で効果のある処方や再現性の高い古典中医学的処方を集約してらっしゃいます。循証鍼灸治療学は、中医学を科学という強力な物差しで測り直すことで、西洋医学と馴染む現代化した中医学を発展させるだけでなく、科学の土俵でも効果を認めることで西洋医学とは独立した中国伝統医学を西洋医学と並ぶ世界主流医学に成長させ得るのかも知れません。
 
<日本滞在>
日本の鍼灸業界の動向と言えば、兵頭明先生が進めておられる文部科学省委託事業が大変興味深く、ちょうど一時帰国中に本事業の成果報告会が開催されるとのことで出席させていただきました。
本事業は、2025年問題を中心に波及する喫緊の諸課題に対して、とりわけご高齢者への医療を世界初の西洋医学・介護・鍼灸医学という3分野連携で取り組まんとする包括的ケア+キュアのニュースタンダードを提唱かつ実践しているものであり、ご高齢者の医療・介護問題への一線級の対策となるべき魅力的なものでした。
本事業の鍼灸医学分野の方法論は、天津中医薬大学第一附属病院の前院長である韓景献先生が開発された“三焦鍼法”です。韓景献先生は、先に触れました循証医学ないしは基礎研究の潮流を牽引されて第一線でご活躍されていますので、“三焦鍼法”は科学的に効果を認められた異彩の手段です。統合医療と呼ばれるものの試みは世界各国、日本国内でも様々なされていますが、現代化する伝統中医学をいち早く取り入れたモデルケースとして日本だからできる形で啓発する本事業は、より一層貴重な役割を果たされることと存じます。そのような動向もしっかり踏まえつつ私自身勉強を続けて参る所存でございます。

 さて、最後にもうひとネタ、東京衛生学園の同級生と久々に再開した話をお届けします。専門教育を一緒に受けた同期の絆は別格で、仲間の動向は気になるものです。
一部の人々は臨床教育専攻科に進学しています。充実した学びを経て、次の4月からいよいよ就職する運びとなります。他の人たちは、意外にも転職(同業他社の意)を計画しているようでした。今回集まったメンバーは私と同年代の若手でしたので、開業ではなく勤務志向が強く、卒後に就職した先で臨床と勉強を続けながら自身の興味や方向性を定めつつ、2年間勤務した現在、職場を変えて次なるステップへ進んでいくという勉強家の皆さんです。
手に職をつける資格持ちならではのチャンスを各々の目標や目的達成に向けて生かしていっているのだと感服しました。そのメンバーとは、専攻科の学生、徒手療法の臨床家、首席、美容家、鍼灸接骨院の社長、トリガーポイントの専門家、以上の面々でした。記念写真を添えて今回のレポートを終えます。

東京衛生学園の同級生
上柿拓真