トップページ VOICE 卒業生インタビュー:鍼灸マッサージ師として活躍する土屋先生

VOICE

土屋 慶幸

コロナ禍の今だからこそ
鍼灸マッサージ師としてできること。

鍼灸マッサージ師

土屋 慶幸 さん

東洋医療総合学科 2015年卒業
ワークス北参道鍼灸院 院長

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  • スペシャル
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入学前は社会人

コロナ禍での治療院運営について卒業生に話を聞きました

新型コロナウィルス(以下コロナ)の感染拡大により、鍼灸マッサージ業界もさまざまな影響を受けています。
本校を卒業し、東京都渋谷区で5年前に治療院を開業した土屋慶幸先生に、コロナ禍での仕事の現状、課題についてお伺いしました(2020年9月)。

※土屋先生は、治療院開業準備等に関する本校の授業も担当しています。
※開業直後の2017年にも取材しました →インタビュー記事はこちら

施術だけでなく安心も提供できるように

Q:コロナの感染拡大を踏まえ、治療院の仕事、患者様への対応で特に気を配っていることはありますか?

A:新型コロナウィルス感染防止ガイドラインを参考に、治療院内は換気に注意し、問診時に患者さまに安心してお話していただけるようベッドの位置を変更し、お互いが2mの距離を確保できるようにしました。
また、患者さま同士が重ならないよう予約枠に余裕をもち、来院からお帰りまで院内は患者さまお一人、施術者一人となるように工夫しています。その他では、トイレや触れることが多い場所などは適時消毒をするようにしています。
施術者は定期的な検温、マスクの着用、施術前後の手洗いやアルコールによる手指消毒を徹底しています。施術中はなるべく必要な会話のみに限定し、会話が必要な時には一定の距離をとるように気をつけています。
そして、施術とともに安心をご提供できるよう当院の対策を口頭でしっかり説明するようにしています。

4月~5月は来院者数が激減→7月以降は回復傾向

Q:コロナの流行で、来院者数に影響が出ていますか?

A:影響は大きく出ています。電車など交通機関を利用して遠くから来院される方や高齢者の方などを中心に、しばらく様子を見たいという方のキャンセルが続きました。
月次では、2月から3月中旬までの来院者数は前年同月比5%減とわずかな減少だったものの、3月後半以降は新型コロナ感染者の増加とともに当院の来院者数も減少幅が拡大しました。特に東京都の外出自粛要請、政府による緊急事態宣言を受けて4月、5月は60%減と大幅なダウンとなりました。
その後、緊急事態宣言解除を受けて6月に入ると新規の方の問い合わせも増え始め、トータルの来院者数も少しずつ回復基調となってきました。7月、8月は25%~30%の減少となり前年の7割程度まで回復しています。

腰痛、眼精疲労…鍼灸マッサージを必要している方に向き合う日々

Q:コロナの流行前から継続的に通われている患者様の傾向・事例がありましたら、教えてください。

A:4月、5月と不要不急の外出自粛という期間においても来院される方は一定数いらっしゃいました。「こういう時だから体調管理のためにメンテナンスをしっかりしたい」、「免疫力を高めたい」という方のほか、コロナ流行前から継続して治療をされていた20代から60代くらいまでの方などは、通常どおり来院される方も多かったです。
また、既存の患者さんで多くの方が口にされたのが、コロナ禍での生活の変化からくる不調です。1つは、在宅勤務で、「家のテーブルで仕事をしたら腰痛がひどくなった」、「眼精疲労がひどくて頭も痛くなることがある」など働く環境が変わって体に不調を感じて治療を希望されるケースです。
もう1つは、「電車が怖い」、「人混みが怖いし、新宿を通りたくない」とコロナの不安を感じながらの生活にストレスが溜まり、結果としてイライラ感、焦燥感、不眠、耳のつまり感など自律神経のバランスを崩されて不調を訴える方もいらしゃいました。

「コロナ禍でも辛い症状をどうにかしてほしい」という訴えに対して、鍼灸マッサージの施術でお手伝いできることはたくさんあると思います。そして、この不安な環境下では、患者さまに安心を感じてもらい、「コロナは怖いけど、来てよかった」と信頼していただけるよう努めることが大切だと感じています。
そのためにも、お話をじっくりお聞きする、感じている不安を共有できるような環境や時間をご提供することも大事になってくると思っています。

患者さまの不安・負担を減らすためには「コミュニケーション」が大切

Q:コロナ流行後、新規に来院された方の傾向・事例がありましたら、教えてください。

A:4月以降の新規患者さまでも既存の患者さまと同様に「この辛い症状をどうにかしてほしい」という方が多かったです。
特にここ1ヶ月では、ぎっくり腰の方が7名と目立ちました。突然、腰の痛みで動けなくなってしまう、日常生活にかなりの影響があり辛いですよね。僕は往診はしていないのですが、「動けないから来て欲しい」という切実な電話の声に、バッグに治療道具一式を入れて伺ったこともありました。治療後、立ってトイレまで歩けたことをすごく喜んでくれて、僕も嬉しくてコロナ下なのに握手をしてしまいました。

コロナで生活が変化したことで、体に負担がかかり来院された方もいらっしゃいました。
右足が不自由で足に力が入らない60代のこの方は、以前から手すりに掴まって行動することが多かったようです。ところが接触感染が気になるので手すりに掴まれない生活が続き、健康な左足にかなりの負担がかかってしまったようです。左側のお尻からハムストリングにかけて痛みと痺れが出て困っているとのことでした。現在も治療を継続していますが、気になる痛み痺れは改善しているとのことでよかったです。ただ、コロナ下での生活はこの先もしばらく続きそうなので、出来る限りサポートをさせていただければと思っています。

初めて来院される方は、「どんな治療院なの?」、「治療する人はどんな人?」、「本当に治るの?」といろいろな不安とともに来院されると思います。コミュニケーションをしっかりとることで、新規の患者さんの不安を1つ1つ取り除いて信頼関係を築けるよう努めています。
治療院でのコロナ対策の説明、そして問診の後に治療方針をお話しして、納得していただいてから治療をするように心がけています。もちろん、こちらから一方的に話すのではなく、患者さまの声をしっかり聞くことも大切です。

どんな夢をもって、自分は鍼灸マッサージ師になったのか……初心にかえり、平時では経験できないことを学んでいます。

Q:最後に、鍼灸マッサージの仕事の魅力、価値について。鍼灸マッサージを学んでいる学生、これから資格をめざそうという進学検討者に向けて、土屋院長の思いをお聞かせください。

A:みなさんは夢をお持ちでしょうか。鍼灸マッサージ学校に在学している、鍼灸マッサージの学校に通いたいと思っている方なら、国家資格を取得して鍼灸マッサージ師として誰かのお役に立ちたいという夢を持っている方も多いと思います。

一方、新型コロナの影響で今までの生活と比べてあまりにも変化が大きく、不安になることもたくさんあるのではないでしょうか。自分の夢は実現するのだろうか、このまま続けていいのだろうか、学校に入学するのは落ち着いてからの方がいいのではないか。
誰も経験したことがない未知の世界に放り込まれたのですから不安だらけなのは当然ですよね。

僕もみなさんと一緒です。治療院を続けていけるのだろうか、院内での対策が不十分で患者さまにご迷惑をおかけしないだろうかと不安はつきません。
でも、僕はこういう環境だからこそ、鍼灸マッサージ師として前に進もうと思っています。なぜなら、コロナ下でも鍼灸マッサージは必要とされていることが1つ。そしてもう1つは、こういう環境下での治療院の経営・運営、そしてリスク管理や、こういう時に来院される患者さまの症状、どういうお気持ちでいらっしゃるのか、それらにどう応えていけばいいのか。決して平時では学べないことを、今経験するべきだと思うからです。そして、その経験が今後、治療家としても治療院経営者としても役に立つ時が来ると思うのです。

僕は自分が辛い時に助けてもらった鍼灸マッサージで、今度は自分が困っている人のお役に立ちたいという夢があり鍼灸マッサージ師の資格を取りました。まだまだ「へぼいな~」と落ち込んだり、「俺やるな~」とニンマリしたりの日々ですが、今回のコロナ禍は、自分が初心にかえるきっかけを与えてくれました。
“どんな夢を持って、自分は鍼灸マッサージ師になったのか”、ということを考えながら患者さんと向き合う中で、また新たなスタートがきれたような気がしています。

鍼灸マッサージを必要としている人は確実にいます。将来、皆さんが治療家になった時、あなたを必要とする人が必ず現れます。その時に、その方の期待に応えるべく、今できることを一生懸命やっていきましょう。今だからこそ経験できることもしつつ、夢に向かって一歩一歩進むことが大切ではないでしょうか。